桜が綻び始める季節になった。
だが、その本丸の桜は薄紅の色合いではなく透明な青さをはらんでいる。そのために、青桜の本丸という名で呼ばれるようになり、幾年もの時が過ぎた。
そして、春のある日。源清麿は本丸に設置されている端末を使って、調査をしていた。
いまの近侍は親友である水心子正秀だ。彼が主を見てくれているいまならば、主に気取られない隙はある。清麿は素早く端末の鍵盤を叩き、必要な情報を頭に叩き込んでいた。
本丸の中枢装置の一つに「厳禁」と書かれている場所がある。清麿は素早く暗号を打ち込んで、中を見た。
つい、苦笑してしまった。
清麿は自身の端末に、苦笑せざるをえない記録を複製して、履歴を削除しながら端末を切る。
この話は親友にもした方がよいだろう。
清麿は手の中に収まる記録媒体を水心子も知らない場所にしまいながら、自身の部屋を出ていった。
近侍としての役目を終えた水心子が戻ってくる。
すでに夜は更けて、清麿は湯浴みを終えたところだ。水心子も同様に眠る前の支度を終えて、柔軟体操を律儀にしている。
水心子の柔軟体操が終わってから、清麿は手を招いて親友を呼んだ。
「どうしたんだ?」
「これを見てごらん」
清麿は端末に挿していた記録装置を起動させる。画面に広がるのは、雲の海に囲まれながらも、緑を伸ばしている庭園だ。赤い花をつけつつ、地面は見えない様子は幻想的だった。
「これが、どうかしたのか?」
「空中庭園。主が憧れている場所らしいよ」
水心子は画面に顔を近づける。三百六十度も回転して、様々な角度から観察できる。
「主もどこかに出かけたいみたいだね」
清麿は青桜の本丸の主を思い浮かべる。普段は目元を隠していて、喋ることもできない人間だ。だけれど、心優しく、刀剣男士にも丁寧に接してきてくれる。
決して、悪い主ではない。
その主が息抜きで「こういったところに行けたらなあ」と夢を見ているのは、人情味がある。清麿にしてみれば、もう少しだけ優しく接してもよいかな、と思うくらいには親しみを持てた。
だが、水心子は違ったらしい。
「我らには歴史を守るという使命があるというのに」
「まあまあ。主も、審神者になるとここから出られないから、大変みたいだしね」
それもあって、出陣した際には主へ土産話を持ってくる刀剣男士も青桜の本丸には多い。主が刀剣男士たちに慕われている証拠でもあるのだろう。
「審神者になると、いざというときを除いて、家族とも連絡を取れないらしいしね」
そこまでして、どうして審神者になったのかという疑問も生まれなくはない。ただ、聞くだけ野暮なので清麿は内に秘めておくことにした。
「むう」
水心子は未だ首を傾げている。その様子は真面目で、大変可愛らしかった。
「自分がいるのに、って思ってる?」
「まさか!」
「僕は水心子がいるのなら、南極だろうと北極だろうと、砂漠であってもついていくけどね」
大切な親友の傍らにいられるのならば、どのような不自由だって甘んじることができるだろう。
清麿がそのことを隠さずに伝えると、水心子は黙って顔を赤に染めた。