銀星が空を駆ける本丸でのことだ。
箱入りの三日月宗近が番である小狐丸の腹までも満たしたいと欲の深いことを考えて、料理をするようになった。
そうして今日できたのは、炒り卵になるのをかろうじて避けられた卵焼き。
黄色くて甘い魅惑の固まりを前にして、三日月は腕を組む。
「うーむ」
「どうしたんだ?」
一緒にああだこうだ悩んで作っていた愛染国俊が問いかけると、三日月はあっさりと答える。
「あやつが甘いのと塩辛いの、どちらを好むのかを忘れていた」
卵料理とは加える手間は少ないのだが奥の深い料理で、焼き加減に味付け加減、混ぜ方に固め方など好みによって仕上がりが多岐に渡る。場合によっては片方が苦い思いを呑み込むほどに、人によって刀によって、味わい方が分岐する料理だ。
作るのに手一杯だった三日月はいつもの自分の好みで甘いものを選んでいたが、小狐丸はどちらを好んでいただろう。燭台切光忠の卵焼きも歌仙兼定の卵焼きの両方ともをにこにこ食べていたから忘れてしまった。
「まあ、大切だよね。相手の好みは」
「傍から見てるとあの天下五剣とは思えない甲斐甲斐しさですけどなぁ」
手伝ってくれた蛍丸と、見ているだけだった明石国行が覗いてくる。一個、つまみ食いとばかりに手を伸ばしてくる明石から卵焼きを遠ざけて目を細めた。
これは小狐丸への料理だ。
「はいはい。小狐丸はんならどちらも美味しい言うてくれますやろ」
「だからいけない。より好きなものを渡したいというんだ」
明らかに呆れた顔をされた。明石は内心で「あーはいはい」とでも思っているのだろう。
「でも、もう玉子は使えないよ」
「うむ。これは次のためのすてっぷになるな」
覚悟を決めた三日月は食堂へ卵焼きを運んでいく。愛染は慌ててその前に追いつくと、エプロンを外させるのを手伝った。
そうして三日月はいまだ食事に手をつけていなかった小狐丸の隣に座る。
「三日月、どうしたのですか。いないので心配しましたよ?」
「それは悪いことをしたな。あと、こちらを食べてくれ。そして率直な感想を聞かせておくれ」
三日月は小狐丸の机の上に卵焼きを載せる。新しいおかずの出現だが、羨ましがる刀はいなかった。小狐丸の分しかないのはもうわかりきっている。
他の刀剣男士によって作られた料理に比べると、つたなさが目立つ崩れかけた卵焼きを小狐丸は愛おしげに見つめた。箸を取り、口に運ぶ。常日頃から三日月をぱくんと食べる大きな口は簡単に卵焼きを呑み込んだ。
もぐもぐと噛んで、喉が動く。
「甘やかですね。好きですよ」
「本当か? 塩辛いのが好みだったりしないのか?」
「あなたが最初に分けてくれた、あのしっとりと甘い卵焼きを食して以来。私も甘い方を好むようになりましたので」
ならばよし、と三日月は笑った。自分も料理に手をつけ始める。
それにしても、今回手伝ってくれた来派の刀にも今度礼をしなければなあ。
三日月は助けられてばかりだった。
手料理(サンプル)
-
URLをコピーしました!
-
URLをコピーしました!