冬であっても赤い葡萄が目を楽しませる本丸であるために、その本丸は赤葡萄の本丸と呼ばれていた。
立冬は過ぎて寒さも厳しくなり出したがそれでも出陣は毎日続いていく。いまは江戸城にて鍵を集めていた。とはいえど昨日には全ての宝物庫を開け終えたのだが、戦うことによって経験を積み重ねられる旨みは残っている。極に至ったばかりの刀剣男士の育成の場として、いま江戸城は戦乱の場になっている。
赤葡萄の本丸では最も練度の高い極の太刀である小狐丸は留守番に回ることの多い昨今であったが、今日は久々に出陣の命が降った。白い鎧と衣姿に着替えながら戦の準備をしていると軽やかな足音がする。
小狐丸が振り向くとそこには初による蒼い狩衣姿の三日月がいた。
「あにさま」
誰にも聞かせないとろけた声で唯一の存在を呼んでから、三日月は小狐丸に後ろから寄り添う。
「もふもふだ」
長い髪と白い飾りの両方に頬を押し付けられた。
「お主も極になったというのにどうしてその格好なんじゃ」
「俺は今日は非番だ。なに、体力はついにあにさまを超えたらしいぞ」
自慢げにする三日月だったが、そういえば江戸城が始まる前にどこかで三日月を拾った気もする。ようやく習合でもさせられたのだろう。この本丸は小狐丸をなかなか鍛刀せず、なかなか拾わない。結果として習合による差は開くばかりだ。
自分よりも少しだけ体力のあるという三日月を小狐丸はじっと見つめる。三日月も己より背丈がほんのり高い小狐丸を見上げていたが、手招きしてきた。近づく。
着物を引かれたと思えば、三日月の顔が全体を掴めないほどそばにある。
口付けられた。
滅多にない弟からの大胆な睦みに応えないほど野暮ではなくて小狐丸は三日月の頭を左手で押さえる。より一層密着させながら薄く柔らかな粘膜に舌を差し入れるとちゅぷちゅぷと上下左右の区別なく動かしていった。傷つけないようにしながら上顎をくすぐると体を震わせられる。
ちゅ、くちゅ。じゅ。
最後に唾液を吸い、小狐丸が自分の舌を三日月の舌に擦り付けてから離れると、とろけた三日月の仕上がりとなる。小狐丸の口の端が上がった。
袂を口に当てて、上目遣いで小狐丸を三日月は見上げる。体を小さくしながら恥じらっていることから、まだ物足りないことが伝わってきた。
小狐丸は再び三日月を抱き寄せる。籠手越しに指を舐めながら、甘く噛むとそれだけで小さな呼吸は熱を帯びていく。滅多に見えることのない白い腕に歯を立てれば赤い小さな列が三つ並んだ。三日月はそれを愛おしそうに、撫でていく。
この着物を脱ぐことはできないけれども終わることのない睦みあいは、もどかしさと愛しさばかりを掻き立てていく。三日月の瞳に浮かぶ月が揺らいだ。
「小狐丸さまー。出陣ですよ」
秋田藤四郎の声が少し離れた廊下から届く。
小狐丸はあっさりと三日月から離れた。「いま向かおう」などと言いながら。
唐突に距離を作られた三日月は、呆然とした顔になっている。それを面白く思いながら、小狐丸は立ち去ろうとする。
「俺と主命のどちらが大切なんだ!」
「お主に決まっているだろう」
先ほどとは別の意味で頬を赤くしている三日月の目と鼻のあいだに、小狐丸は最後の口付けを送る。
「我慢しておれ?」
「ずるいではないか……」
それでも引き留められないと、立ち尽くす三日月に小狐丸はくすくすと笑いながら去っていった。
三日月はその後に小狐丸が帰ってくると三日間は引っ付いたままでいたらしい。
定番の台詞だけれども
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