恋愛教示のために(GBD/リクサラ)

 サラからの質問に答えられなかった。
「ねえリク」
「どうしたの、サラ」
 場所はガンダムダブルオースカイのコックピット、すでに恒例となっている抱きしめからの二人乗りを済ませた時のことだ。
 GBNからの消去の可能性を乗り越えたサラは今日も元気に俺といる。
 そのことに満足していたリクに、サラから問われたことは戦場を飛び交うファンネル以上に恐ろしいものだった。
「あいってなあに?」
「……な!?」
 機体のバランスがとれなくなる。一瞬だけ傾いた後に慌てて姿勢を戻しながら、リクは尋ね返す。
「あ、愛って。どこで聞いたの?」
「きのうお客さんがいってたの。私にそっくりな子が、リクとぎゅっとしているのを見たんだって」
「うん」
「すごくあいしあっているみたい。そういってた」
 うたうようにとんでもないことを口にされているのと、その客にサラの秘密がバレないかの二つが合わさってどきどきしてしまう。
 くわえて、リクはGBNでの姿を多少調整し直した。リアルで身長が伸びたので、以前のままでいると僅かだが行動にラグが生まれる。ガンプラバトルでそのラグは致命的だから、体格を合わせることを勧められた。
 だから、サラが以前よりも小さく感じられて、つい「かわいい」などと思って緊張してしまうのだ。
 前からこうして二人でいたというのに。一緒にいられて安心できるのとは反対にちょっとだけ落ち着かなくなってしまった。その原因はサラではなく、自分なのは分かっている。
 サラへの気持ちが、夜から朝になるように眩しくなっていることから目をそむけてはいない。ただ、いまではなく、一週間だけでもいいから時間が欲しかった。
 俺はチャンピオンの勇姿に憧れを覚えた。
 サラからは大好きを教えてもらった。
 その、大好きの一つが愛なのだと言えばすむのだろうけれど、自分の愛とサラの愛がすれ違う気がして言葉にしづらい。
「リク? 私たち、あいしあってるのかな」
 それなのにサラはまた何事もないように言うから、リクも答えざるをえなかった。サラを正面から見て、頬が熱くなるのを自覚しながら伝える。
「……俺は、サラが好きだよ」
「うん。私もリクがだいすき!」
 やっぱりずれている。
 同じ「好き」という言葉なのに、どうしてこうも違いが生まれてしまうのだろう。それほど「好き」というものが複雑だなんて、中学生の頃のリクは知らなかった。
 その好きを抱えて、サラを助けるためにしたあらゆることを後悔していないけれど、思い返すととんでもないことをしていたと、ベッドの上で頭を抱えた夜もある。
 それなのに、GBNにログインして二人乗りをするときは毎回抱きしめ合うのが幸せなのだからどうしようもない。
 リクはサラからの質問に気をとられてあてもなく飛びながら、人工とは思えない空と海を裂く光景を眺め、今度は自分から尋ねた。
「サラは俺と一緒に乗るとき、どういう気持ちになる?」
「しあわせだよ」
 目が見開かれる。
 サラもまた白い陶磁器のような頬を赤く染めながら、満開の笑顔で言葉を花咲かせていってくれた。
「リクといっしょにいられて、空を飛べて。消えなくてよかった。リクとみんなといられるいまがすごいしあわせだよ!」
「サラ」
 胸にマグマのようにこみあげてくる熱情はなんて名前なのだろう。
 これもまた、愛と呼べるものなのだろうか。切ないほどにかき乱されて、それなのに一緒にいたくてたまらない。離れるのが辛い。触れあえるのが泣きたいくらいに嬉しい。
 サラが俺に抱いてくれる気持ちも、俺がサラに抱いている気持ちも「好き」には変わりはないのなら。
「……サラ。多分、愛っていうのはね」
 サラが俺に教えてくれた全てで、俺がサラに与えたもの全てになるんじゃないかな。
 そう言いたいけれど、まだ成長している途中のサラには難しいだろうから。
 リクは優しく愛の言葉を織り直した。
 言葉を教えるのは、言葉だけじゃないと信じて。


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    Writer

    創ることが好きな人。
    こぎみかとリクサラを主に、世界を大切にしつつ愛し合うカップリングを推しています。

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