『TRIGUN』の台風さんと牧師さん。
書いた人は『TRIGUN MAXIMUM』を三巻まで読了済みです。今回の話も『TRIGUN MAXIMUM』三巻のネタバレを含みます。
てん、と机の上に置かれた青い皿の上には狐色に包まれたクリームが夢見ている。
ヴァッシュが先ほどまで横になっていたベッドを挟む机上に置かれた菓子を指差すと、ミリィがにっこりと言う。
「クレープです。疲れたときには甘い物ですよ!」
「う、うん。ありがとう」
疲れたというよりも怪我の方が深刻なのだが、ミリィの純粋無垢な優しさに少し救われたので、片方だけの腕で持ち上げる。皿にぽとり、クリームの染みができた。青い皿に白い染み。それはまるで空に浮かぶ雲に見えた。バイクで後部座席に腰掛けながら見上げた空を思い出す。
左隣を見ると、ウルフウッドの皺のある肌がぴくぴくと痙攣している。そろそろ起きそうだ。
「ミリィ。ありがとう」
「はい」
その一言だけでわかったのか、わかっていないけれど大丈夫だと思ったのか、ミリィは頷いて病室から出てくれた。
ヴァッシュは少しだけ付き合いの長くなってきた、でもまだ相棒とも仲間とも友とも呼べない相手の横顔を見つめる。徐々に眉が苦く寄せられていった。
「はよ食えばええやろ」
「うん。でも、君と食べてみたかったから」
ばちりと開いた真黒な瞳がきろりと向いて、唇は不機嫌そうに曲げられている。
「起きてよ、ウルフウッド。一緒にクレープを食べよう」
「なんでおどれとクレープ食わなあかんねん」
言われてみれば確かにだが、クレープはウルフウッドのベッドの机上にも置いてある。食べられる状態にまで回復しているのならヴァッシュは嬉しい。
しばらく唇を歪ませていたウルフウッドだが、ヴァッシュの視線に根負けしたのか、ベッドから上半身を起こすとクレープを手に取った。
ウルフウッドの手は命を確かに捉える。
ウルフウッドの口は命を確かに恵みに変える。
彼は、人間だ。
ヴァッシュは当然の事実を慈しみながらクレープへと手を伸ばす。前歯を立ててかじると生地の気遣いある柔らかさとクリームの濃厚な甘さが絡み合い、口の中に広がっていった。
「いけるな」
そう言うウルフウッドの口の端には白いクリームがついていた。
「うん」
ヴァッシュはへらりと笑う。