言ってやるな

 現れる敵が検非違使であるのならば、まだ幸いだ。
 だけれども、初めて出陣する青野原の京都に検非違使が現れるなどあり得ない。検非違使はある程度、その時代に滞留してから姿を現す。時には暴力として、時には救済として。
 御手杵は少し離れた場所で低く言葉を交わしている、小狐丸と三日月宗近に視線をやる。今回の部隊の隊長である太鼓鐘貞宗、また他の部隊員である篭手切江、小夜左文字も御手杵と同じようにしていた。
 呆れているのだ。
「あと三手ほどで本陣に攻め入ることができる。じじいの心配など不要だ」
「ですが、本陣の敵こそ強大です。ここは退くべきかと」
 かれこれ三分ほど、二振りの押し問答が繰り返されている。
 まだ極になったばかりの三日月は遠戦によって刀装を削られており、その隙を槍に狙われて、体力をさらに削られる。その繰り返しで、全ての刀装は剥がれた上に中傷にまでなってしまった。
 この状態で進もうというのは無謀でしかない。
「貞、どうする?」
 御手杵はこっそりと太鼓鐘に尋ねる。腕を組みながら、眉を寄せてといった難しい様子で答えは返ってくる。
「正直、三日月さんに賛成だ。ここで相手の本丸まで攻めきりたい。でもなあ。万が一、折れることを考えると」
「進軍は他の本丸との競争ではありません。退いた方がよいと思います」
 篭手切は慎重を期すことに賛成なようだ。その判断も正しい。
 審神者も戦地にいる刀剣男士と同様に考えあぐねているのか、進軍するのか、それとも帰還なのか、どうするかの連絡はまだ来ていない。
 主が判断を下してくれたら即座に決まるというのに。
 御手杵は小夜にも判断を仰いでみる。
「僕も、帰った方がいいと思います。折れたら取り返しがつきません」
「だよなあ」
 この場では、本丸へ帰還するという意見が多数を占めた。太鼓鐘も主と相談して、進軍を止めることに決めたらしい。
 いまだ言い争う小狐丸と三日月へ顔を向けた時だ。
 三日月はふっと、笑い、言った。
「折れたことのある刀は随分と気が小さい」
「そこまで」
 御手杵は自身の長い得物である槍を二振りの間に差し入れて、会話を止めさせる。斬り乱れた姿の三日月はふいと顔を背け、小狐丸はまだ三日月に言葉を重ねたそうな様子のままでいた。
 だとしても、これ以上、二振りが言葉を交わしても仲は拗れるだけだろう。
 各々が時計型の時空転移装置を起動して、時の流れを遡り、本丸へと戻っていく。
 審神者は金木犀の舞う本丸の入口で待っていてくれた。それぞれの怪我の具合を確かめると、まず三日月に手入れ部屋へ行くように命じる。他には小夜左文字も同様に手入れ部屋へ行くことになり、残された小狐丸は「着替えに行く」とその場から去っていった。
 珍しく、主に愛想を見せることをしなかった。
「あの、何かあった?」
「ちょっとな。三日月が進軍するって聞かなくて。小狐丸とぶつかってさ」
 太鼓鐘の説明に審神者は表情を引き締める。
「ごめんな。きちんと帰還するように、もっと早く僕が命じるべきだった」
 その会話を背にしながら、御手杵は手入れ部屋に向かおうとする三日月に声をかけた。向けられる背中はいまだ頑固なままだ。
「あんまり、あいつに意地悪なことを言ってやるなよ」
 沈黙だけが答えになる。
 わかっているために御手杵は淡々と続けた。
「俺たちは、ここの三日月じゃない三日月が、何かを『折った』ことしか知らない。だけど、小狐丸はこの本丸の三日月を大切にしたいんだ」
 だから。
「謝っておけよ」
 御手杵は三日月に背を向けて、審神者の下へ戻っていく。その途中で、自分らしくのない世話を焼いてしまったなあと、頭をつい掻いてしまった。
「俺は突くしか取り柄がないのになあ」
 だからといって、小狐丸と三日月の関係が崩れてしまうというのを、放っておけるわけもなかった。


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    こぎみかとリクサラを主に、世界を大切にしつつ愛し合うカップリングを推しています。

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