雪がさわさわ降る季節だというのに、青い桜が舞い散っている。白い洗濯物に張り付くことによって、慎ましく自身の存在を示していた。
数多ある本丸の中でも、青い桜が目立つが故に青桜と名付けられた本丸がある。平穏な春も、過酷な夏も、芳醇な秋も、鮮烈な冬にさえその青い桜は咲いている。
とはいえど、時の流れには逆らうことはできないため、青桜の本丸もいまは冬を迎えている。冷えた水で手をかじかませながら、顔を洗い、歯を磨き、洗濯をする。
内番姿の大倶利伽羅もぱん、と勢いよく白い寝台の敷布を広げて物干し竿に干し終えた。
洗濯物を入れていた籠を持ち、大倶利伽羅は縁側に腰を下ろす。いまも薄暗い灰色の空を眺めながら、白い息を吐いた。
思うことは一つ。
平和だ。しばらくは一人でいたいと思うほどに。
普段は黙りながら大倶利伽羅の後を追ってくる火車切も今日は出陣のはずだ。似た肌の色をした、無口な少年の姿を思い出す。
まさか、九年も経って自分に弟ができるとは思いもしなかった。それは光忠に兄ができたのと同じことなのかもしれない。
福島光忠が顕現したときは、燭台切光忠はなんとも言えない顔をしていた。唇をきゅっとさせていた。
本丸はこれからどうなっていくのだろうかと、大倶利伽羅は思いを馳せる。火車切が友人だという九鬼正宗を連れてきて、その九鬼は本丸の壁を破る必要があると囁かれる夢を見たという。囁いたのは、布を被った三日月宗近だというのだから怪しげなことこの上ない。
大倶利伽羅は本丸がまだ、こぢんまりしていた頃に顕現した。いまはもう百を超える刀があるとされる。
変わったこともあれば、変わらないこともある。だが、変化の方が大きいのは世の常だ。起きた変化の煽りを主にくらうのが弱者だということも同じこと。
大倶利伽羅が徒然とそうしたことを考えていると、足音が聞こえてきた。ちらりと視線を向けて足音の主を確かめてから、内心でひきつってしまう。
現れたのは内番姿の小狐丸と三日月宗近だ。青桜の本丸で厄介な組み合わせを決めたら上位に入るとされる。
小狐丸は大倶利伽羅に気付くと、にこりと微笑んで頭を軽く下げる。縁側から地面に下りて、物干し竿に向かって籠の大きさに比べてやたらと少ない洗濯物を干していった。小狐丸の様子を三日月はにこにこと眺めている。
いや、手伝わないのか。
大倶利伽羅は思ったが、言わないでおいた。口に出すと面倒な事態になる未来しか見えない。
「どうかしたか?」
「いや」
だというのに、三日月から声をかけられる。大倶利伽羅は努力して正面を見つめ続けた。
関わり合いたくないのだ。もとから馴れあうこと自体を好ましく思っていないが、三条の刀は、特に太刀は厄介な存在だ。基本的に互いのことしか視界に入れていないというのに、三日月は度々と厄介事を引き起こし、その度に小狐丸に執着されている。
二振りの世界で良いのなら、巻き込まないでもらいたい。
大倶利伽羅が心の壁を閉ざしていると、小狐丸が戻ってきた。三日月は縁側に立ち上がり、小狐丸の手を包む。
「冷たいな」
「まだ寒いですからね」
三日月はすりっと小狐丸の手に頬を添えた。
いや。手袋や、暖房などがあるだろう。
大倶利伽羅はまたも内心で呆れてしまう。言葉にはしない。絶対に、しない。
「三日月は温かいですね」
今度は小狐丸が三日月を抱きしめた。たくましい腕の中に閉じ込められて、三日月の頬は緩みに緩んでいる。
大倶利伽羅は立ち去った。
いつもの伊達部屋に戻り、太鼓鐘貞宗が呑気な顔で入っているこたつに下半身を突っ込む。そうして、顔を天板に押しつけた。
「あれ? どうしたんだ、伽羅」
「伽羅ちゃん、どうしたの?」
大倶利伽羅はむっくりと顔を上げる。目が据わっていた。
「俺は、馴れ合うのを見るつもりもないんだ」
太鼓鐘と燭台切の頭に、同時に疑問符が浮かんだ。
被害刀大俱利伽羅
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