ものすごく痛いですよ。
彼がそう言って敵を倒していく姿は見てきた。何度も見てきた。紳士なのだか、野性なのだかと苦笑していた自分の甘さにいまはぞっとする。
「……ものすごく、痛いですよ」
それは、倒すと言うよりも惨潰すると言うべきだ。
小狐丸は本丸に戻ることを固辞し、番である月が消えた門の前から動こうとしない。たまに白山が持っていく弁当や団子を頭を下げて受け取り、黙々と食して戦える状態にするだけだ。
その姿を見ているしかできない。
いまの本丸は三日月の心象風景に包まれている。そんなことは言わなければよかった。口にしてしまったからこそ、小狐丸は。
「三日月宗近……!」
地の底から湧き出る憎しみと、天から溢れ伝う愛おしさが混じった声だけを残して本丸から距離を置いてしまった。
「駄目だな」
「あるじさまはよくやっています。ただ、いまはあのかしこいおとうとの、めったにない、おろかなわがままをゆるしてやってください」
第三部隊の隊長として、時に第一部隊と交代しながら嵐を食い止めている今剣が傍に寄る。励ますように言われた内容が重かった。
「みかづきは、おろかなおとうとです。なにもいわなかった。もしかすると、いえなかったのかもしれません。それがなにより、かしこいおとうとのこぎつねまるはゆるせないのでしょう。あれらはひょうりいったい。みかづきがいないのなら、こぎつねまるがまもるしかないとわかっていても」
「小狐丸は三日月一人に背負わせたくなかっただろうに」
「とうぜんです」
ぼくはまたいきます、と今剣は出ていった。
いまもまだ戦っている刀剣男士たちがいる。彼らを放っておくことはできない。してはならない。だから、また立ち上がることにした。小狐丸のことはまたあとだ。
出てはならないと言われた背後に広がる白い月を見上げる。
三日月宗近。彼は一体、何なのか。
防人イベントの渦中こぎみか
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