今度会うときにはちょっとした驚きがあるから。
三日前に言ったのはリクだが、再会してびっくりさせられたのもリクになった。
ロビーではなく、フォースネストで驚かせたい相手が一人で待っている。これに気付いたときにどんな反応をされるか、自分の手を見たあとにリクは声をかけた。
「サラ」
窓から差し込む光で朧だった姿が明らかになってくる。軽やかな足取りで近づいてきたサラに挨拶を返そうとするが、できなかった。
「リク?」
こてん、と首をかしげるサラはいつもと変わらない。
外見以外は。
仮想とは思えないくらいに輝く銀の髪は青いリボンでまとめられ、服の上にはこの前まではなかった濃紺のケープがかかっている。大人びた姿になっていた。
衣装や髪型だけではなく、目線の高さもいままでと変わらない程度には近い。本当はもっと差が生まれるはずだったというのに、これまでとさほど変化がなくなっていた。
どういった反応を返せばいいのか分からず、じっと見つめてしまう。
「リク?」
もう一度、自分の名前を呼ぶ声は耳に馴染んだものだった。
リクも呼ぶ。
「サラ、だよね」
「うん。私だよ」
にっこりと大好きな表情を浮かべられて、ようやく目の前の少女がサラであるとリクは認めることができた。
次に生まれた感情は、新しい姿のサラも可愛い。素直に口に出すのは恥ずかしくてできないから、代わりに笑って、いま二人きりで良かったと偶然に感謝する。
しばらく笑い合っていたが、ふいにサラがリクを見上げた。
「その新しいリクもリク、だよね」
「あ! そうだよ、この姿をサラに見せてびっくりしてもらうはずだったのに……俺がびっくりするなんて」
サラが姿を変えたように、リクもダイブしてからの姿を少し変更した。下ろしていた前髪は左に分け目を作り、サラほどではないが服も替え、身長も実際に伸びたくらいには調整した。
アバターを変えることについて何も言わなかったのは意地悪ではなく、変えた後の反応が気になったからなのだが、まさかサラも同じことをするとは思わなかった。
リクはつ白旗を揚げる気分で腕を組む。その腕に、小さな手の平が重ねられた。
ここは仮想空間で、実際に触れられているわけではない。けれど、互いに手を伸ばすといつだって微かな生きている熱を感じてしまう。
「大丈夫。かっこいいよ」
「ありがとう」
ここでサラも可愛いよ、なんて言えたらよかったのに。強く思っているのに、言葉になって出てきてくれない。
一年前。サラを助けたばかりの頃はもっとシンプルに好きだと言えたのに、実際に現実でも一緒に過ごすようになってから、想いはくるくると形を変えていった。
好きだ。サラが好きだ。だけどそれは、どんな色をしているのか。柔らかいのか硬いのか、熱いのか冷たいのか。丸いのかもっと、尖っているのか。
中学校の卒業式の時に告白してくれた子のことを思い出す。リクは懸命になって相手が向けてくれた好意を受け取ることはできなかった。あのときもサラのことばかり浮かんで、納得した。
俺はきっと、サラが好きだ。ガンプラを愛するようにではなく、現実に帰れば手の中に収まるほどの少女に恋をしている。
すごく驚いて、でもかけらも嫌ではなかった。
だからリクはサラを驚かせたかった。
「サラ。実は、もう一つびっくりしてもらいたいことがあるんだ」
「なに?」
「俺はサラが好きなんだ」
「私も好きだよ」
「うん。知ってる」
君のそれがまだ、俺と同じ形をしていないのだけは、よく知っている。
そのことにちょっとした悲しみも傷つきもあるけれど、これからも一緒にいられるから。一緒にいたいから。
サラが成長して、本当の意味でお互いの好きが繋がったら。もっと広い世界へ旅してみたい。
それまでに俺たちは何度姿を変えるだろう。もしくは、変わっていくのだろう。
不安もあるがそれ以上に楽しみだ。
リクは笑った。サラも笑う。
「そういえば、サラはどうして姿を変えたの?」
「トーリがそうしたらって。リクに合うように」
「そう、なんだ」
いろんなところからがんばりなさいと言われている気分になった。
モデルチェンジ(GBD/リクサラ)
-
URLをコピーしました!
-
URLをコピーしました!