62.風の回廊

 今日も今日とて、ガンダムネクサスオンラインだ。
 リクはガンダムダブルオースカイを駆りながら、サラと共に新しく解放されたマップを探索していた。ユッキーにモモ、アヤメやコーイチはいない。
 二人きりだ。
 新しく解放されたマップは中東をイメージしているらしく、砂漠とどことなく侘しげな街が印象深い。空を飛んで周囲を眺めていたが、ふと、気になる場所を見つけた。
 古代遺跡を連想させる、風雨にさらされた白の建造物がある。
「リク、あれ」
「なんだろう」
 先に気付いたサラに示されて、リクはガンダムダブルオースカイを建造物の近くに着陸させた。
 機体から降りる。リクが先に操縦席から降りて、サラに手を差し伸べた。
 砂に足を取られないように気をつけながら、建造物の中に入っていく。
 中には長い通路が広がっていた。左右の壁と天井はなく、吹き抜けになっている。床は大理石が近い材質なのだろうか、硬くて、歩く度にかつかつと音が鳴った。
 リクとサラは並んで歩いていく。
「ここ、なんだろうね」
「うーん。ガンダムでも、こういうところはあるのかな?」
 ユッキーに引きずりこまれるようにして、ガンダムネクサスオンラインを始め、いまは一流のランカーでもあるが、リクは決してガンダムといった作品に詳しいわけではない。多少の勉強はしているが、それでも世界観などはまだまだ未知なところが多い。
 だけれど、いまいる場所はガンダムの作品を基にして作ったわけではない気がした。根拠と言われたら、勘と答える敷かないのだが。
 長い通路を歩いていく。角を曲がり、中庭のような場所が見つかる。その地点に向けて歩き出す。
 ガンダムがあった。
 天上からの光を受け、全身に草花をまとって薄暗くまたたくガンダムが、中庭に佇んでいた。
 リクとサラは言葉を失くす。
 いままで多くのガンプラを見てきた。戦ってきた。
 だけれど、目の前の機体は違う。歴史が違う。辿ってきた軌跡が違う。ファンタジーの世界ではなくて、リアルで戦乱をくぐり抜けてきた。
 血を、知っている機体だ。
 サラがふらりと歩き出し、手を伸ばそうとする。リクは声を上げかける。
「触らない方がいい」
 だが、その前に低く滑らかな声が響いた。
 リクとサラが振り向くと、青年がいた。初めて見る人だ。肌は浅く焼けていて、癖の強い黒髪をしている。服装も、サイバーというのか、近未来と例えるのか、そういった格好をしていた。
 青年はリクとサラの横を抜けていき、ガンダムとの間に立った。
「あれはもう、役目を終えたんだ」
「えっと、あなたは?」
 青年は黙して語らない。
 ただ、目の前にあるガンダムに視線を注いでいる。
 その時になって、風が、吹いているのを感じた。だが、目の前の青年の髪も服も揺れることはない。サラの髪はなびいているというのに。
 サラは再び、ガンダムに手を伸ばす。触れるのではない。確かめるように、手を伸ばす。そして、下ろした。
「うん。この子は、もう眠ってる」
「そうだ。ようやく眠れたんだ」
 サラと青年は何かしらで通じ合っているようだが、リクにはさっぱりわからない。かといって、質問もしづらい雰囲気だ。
 重くはないが軽くもない雰囲気を漂わせながら、三人はただガンダムを見つめる。
 眺め続け、リクはふと、気付いた。
 うっすらとだが、目の前の機体はダブルオースカイに似ている。
 そういった印象を受けた。
「お前たちも」
 いままで黙っていた青年が口を開いた。リクとサラは顔を向ける。
「いつか、終わるのだろうか」
 何を、とは問われていない。
 だけれど、リクは答えた。
「終わらせません。まだ、ここでやりたいことだって、いっぱいあるから」
「そうか。ここは平和、なんだな」
 青年が微笑する。リクは答えあぐねた。ただ、黙って透明な瞳を見返すしかできない。
 そして、青年は立ち去った。リクとサラはその背中を見送る。角を曲がったところで、青年の姿は見えなくなった。
 振り向いた先には、先ほどまであった機体も、消えていた。
 リクとサラは呆然としながら顔を見合わせる。
 いまのは、なんだったのだろう。何を伝えたかったのだろう。それともただ、忘れて欲しくなかっただけなのだろうか。
 ガンダムという機体の、本質を。
 リク達はガンプラとして、ガンダムを初めとする機体を自由に改造し、楽しんでいる。だけれど、その裏として、戦争のための道具という意味があるのを消すことはできない。
 ガンダムは虚構のアニメ作品ではあるが、戦争を取り扱っている。物語で流れた血も涙も、フィクションではあっても、偽りではない。
 その意味を噛みしめながら、リクは言う。
「戻ろっか」
「うん」
 サラは黙って手を繋いでくれた。感じられないはずの温もりを、それでも意識しながらリクは歩いていく。
「サラ。俺も、いつかこの世界にさよならって言うのかな」
「わからない。でも、サラは」
 見上げる水色の瞳の縋る色に、ああ、手放せないなとリクは改めて理解した。
 微笑む。
「うん。大丈夫、わかってるよ」
 たとえ、いつか自分が大人になって。この世界と別れを告げることになろうとも。
 サラとの絆は終わらない。
 終わらせてなんて、やらない。




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    創ることが好きな人。
    こぎみかとリクサラを主に、世界を大切にしつつ愛し合うカップリングを推しています。

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