幸せのありか(エヴァ/LRS+K)

 注意! 結婚して子供までいるシンレイと仲の良いカヲル君というネタです!

 春の小道、零れる深緑、光の唄。
 世界を構成する全てが生命を祝福している。
 永遠に続く夏の物語は終わりを告げて、四季の巡る世界となった。
 渚カヲルはその世界を歩く。スーパーから出て、公園を進んでいく。かといって一人ではない。隣には、碇レイが並び、頭の上にはレイの子である碇レイジが元気に暴れていた。落とさないように押さえるのが大変だと笑えば「そうなの」とレイも柔らかに笑う。かつては浮かべることのなかった笑顔。笑うことを知らなかった少女は、穏やかに微笑む大人へと成長した。
「それにしても、シンジ君は良い性格をしているよね。好きな子の子どもを僕に預けるなんて」
「それだけあなたを信用しているの。あと、私も一緒だから」
「あー」
 レイジが同意するように喃語を上げる。その一言すら愛おしいとばかりにレイはカヲルの上で腕を振り回すレイジを見上げた。
 全く叶わないなあ、とカヲルは苦笑する。
 結局シンジ君の幸せは綾波レイの隣にあったのだから。いくらカヲルがどのような形の幸福を手渡そうとしても受け取らないはずだ。
 そのことを本人たちは知らないけれど。知らないままでよいと現在は思える。
 世界がいくつものルートを辿って変化しようとも、そのルートを歩けるのは一つの認知だけだ。他の世界の碇シンジも幸せになってもらいたいけれど、それは他のルートの渚カヲルにしか任せるしかない。
 公園の石畳を踏みながら、カヲルはレイに聞く。
「ところで、君。シンジ君に頼まれた、足りなかった材料は買えたの」
「ええ。あなたにレイジを任せているあいだに、ちゃんと」
 肩にかけている薄茶色のトートバッグの中身を見せられる。その中にはレイジ用のお菓子も入れられていた。
「だったらよかった。前みたいにレタスとキャベツを間違えることとかなくて」
「私のことをどう思っているの」
「やっぱりにくい恋敵、かな」
 溜息を一つ吐かれる。その後に顔を上げられて、断固とした口調で言われる。
「ごめんなさい。でも、私も。いまの私は、シンジくんといると決めたから」
「君がシンジ君の名前をそう呼ぶ度に複雑な気分になるよ」
 呼び方が同じだからなおさらだ。それなのにレイは澄ました様子で言い返す。
「だって、私もいまは碇だもの」
「はいはい」
 好きにやっていてよと、匙を投げるとレイジに頭を叩かれた。
「レイジくん、やめて」
「いいわよレイジ。少しくらい、やってやりなさい」
「あー」
 母親の言うことを優先させることに決めたのか、ぽたぽたと小さな手でカヲルの頭を叩いてくる。
 ああもう、仕方ないなあ。
 こんな日常を幸せだと思える自分が一番仕方ないなあ。
 街路樹を抜けていき、住宅街に入る。その奥を進んでいけば、高台にアパートが並んでいる。右から二つ目にある緑の屋根のアパートの二階を目指していけば、二階の角部屋にあるベランダに碇シンジが出ていた。料理が煮込む段階に入り、その間に洗濯物を取り込んでいるようだ。
「おかえり、レイ。レイジ。カヲル君」
 かつての少年よりも背の伸びた、目に険のない青年となった碇シンジ。その黒い瞳には自棄も絶望もない。
 この瞬間を生きている。
 ただいま、と返しながら階段を上る前にカヲルはレイジをレイに返した。母の元に戻ることができて嬉しいのか、レイジはレイの腕の中で大人しく甘えている。
 今日は日曜日の昼だ。これからシンジの作った食事を食べて、何をするのだろう。
 未来はまだ不確定だ。


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説明
 普段はあんまりこういった説明は書かないのですが、繊細なジャンルなのもあって一応。
 劇場特典の「extlaeEX」についてきた、あの長髪綾波レイちゃんがカヲル君と歩いているイラストから、長らく書きたかった小説です。
 真面目に考察もなにもしないままに。シンレイの子を抱き上げているカヲル君だと思ってしまったのですよ……。シンジ君に頼まれて買い物に出たレイちゃんと、それを追いかけたシンレイの子をつかまえたカヲル君だと思ったのですよ……。
 名前は「レイジ」しか閃きませんでした。はい。



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    Writer

    創ることが好きな人。
    こぎみかとリクサラを主に、世界を大切にしつつ愛し合うカップリングを推しています。

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