両手でマグカップを持ち、息を吹きかけながら甘いミルクティーを冷ます。
マイホームのリビングにて、家主であるシェリアは外出による疲れを癒やしていた。
テーブルの向かいには同居人のバドがいる。先ほどまで共にキルマ湖まで賢人トートに会いにいっていた。その間、バドの姉のコロナは三人分の夕食を作っていてくれたのだから、少しの申し訳なさをかじってしまう。今度はコロナを連れ出してあげようと、シェリアは決意した。
最初は一人きりだったマイホームも、コロナとバドという弟子を迎え入れてから温もりが生まれた。帰ってきた時に灯りが着いているというのは存外、悪くない。
バドはコロナが夕食のつまみ食いを防止するために出したパンの耳を揚げた菓子をつまんでいる。
「でもさ、師匠」
「なにかな」
「師匠は、どうして行く先々でお願いを聞くのさ。おかげで賢人捜しが全く進んでいないじゃないか」
痛いところを突かれてしまった。
バドの勢いに乗って賢人捜しを手伝うことにしたのは良いが、シェリアは顔が広いのかそれとも親しみやすいのか、さらに付け込みやすいのか、よく「お願い」をされる。初めて行った街や森でも巻き込まれるのだから、相当人の良さそうな印象を与えているのだろう。
「バドの言いたいこともわかるけどね。だけど、ガイアやトート、ロシオッティは別にしても、あとの賢人は居場所なんてさっぱりだろう。その手がかりをつかむためにも、手伝っているのさ」
ファ・ディールには謎が多い。未だ足を踏み入れていない未開の地も数多く存在する。
それは、シェリアが想像できないためだ。新しい花を芽吹かせるアーティファクトすら、まだ両手に収まる数しか見つけていない。だから、新しい賢人に会うことも叶わない。
などといったことをバドに話すのだが、納得のいっていない顔だ。
「この前、バドを放り出してニキータを連れていったのがそんなに気に食わないのかな」
「うん」
素直に頷かれた。下手に意地を張られるよりかは、ましなことにする。コロナの方が我慢してしまいがちで、後から大変なことになるのだ。
「悪かったよ。それは、私が悪かった」
「まあ、師匠も色んな付き合いがあると思うんだけどさ」
唇を尖らせながら言うバドも、理由があることは承知している。だから、頭の中の理屈では文句はない。しかし、感情では納得いかないようだ。
バドもミルクティーの淹れられたマグカップをぐいと飲む。随分と可愛らしい自棄飲みだった。
48.お願い
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