冬の雪が降り積もっても、赤い葡萄は垂れた枝の先から重たげに揺れる本丸であるためにその本丸は赤葡萄の本丸と呼ばれている。
年末の連隊戦により、赤葡萄の本丸にも顕現した後家兼光は本丸の主の傍らに控えながら、じっと庭先にいる二振りを眺めていた。この本丸でも古参に属する小狐丸と三日月宗近だ。愛の戦士であることを自負する兼光としては、打たれた時代も主も刀派も違えども中々気になる存在だった。
この二振りは番であるという。正式にはまだ契ってはいないようだが、二振りの間にある強い結びつきと結んでいる愛情は見ているだけでも伝わってきた。
「ねえ主」
「なあに、ごにやん」
「だからごっちんだってば」
兼光は苦笑しながら言い直すように頼んだ。この本丸の主は時に男性の審神者も顔負けの勢いを誇るたくましい主で、刀剣男士に形だけではない敬意を払われている。新参の刀である後家兼光は最初はどうこの主に接したものかと姫鶴一文字に相談をしたのだが「わりと気さくだよ」と言われたので、その通りにしてみたら想像以上に親しみやすかった。それは主も同じなのかそれなりに兼光のことも近侍として置いてくれている。
兼光は本題に戻ることにした。
「あの、三条の太刀なんだけど。随分と仲が良いね」
「ああ、ごちとんと姫鶴とはまた違う形でね」
「だから、ごっちん」
主は苦笑する。それから「はいはい、ごっちん」と言い直してくれた。ようやく満足できる。
「で、小狐丸と三日月は恋仲なんだよね?」
「まあね。あの二振りに手を出すと三日月が面倒だよ。もう関わりたくないくらいに絡んでくる」
ふっと遠くを見つめる主に兼光は同情した。三日月宗近という刀は表面だと優雅でたおやかに写るのだが中身は違うようだ。
兼光がまた二振りに視線を戻すと、三日月が小狐丸の袂を引く。この二人はすでに修行に行って極になっているというのにいまだ何もないときは初の出陣衣装で過ごすことが多い。生存も偵察も上げられるところまで上げきってしまったから、内番をすることもないという。だから三日月の側に小狐丸がいるか、三日月が小狐丸に寄り添うために二振りで揃っていることが多い。いまだってそうだ。
小狐丸の袂を引いた三日月は何か言いたいことがあるようだ。それを察した小狐丸はすぐに少しだけかがむと普段は誰にもさらさない自分の耳を三日月に近づける。三日月は手で覆いを作ってその耳に言葉を囁きかけた。小狐丸の目尻が下がり、くすくすと笑い合う。
なんとも仲睦まじい光景だ。
兼光が主の横にある揚げ物に手を伸ばして、かじったところで三日月と小狐丸は場所を変えるようだ。差し出された小狐丸の手に三日月は己の手を重ねる。そうして歩き出したところで。
三日月がちろりと視線を主の部屋に向けた。
兼光はびくりと身をすくませてしまい、手にしていた揚げ物が落ちる。それを見た三日月は口元に人差し指を伸ばして当てると、何も言わずに去っていった。
「主」
「なにかな」
「愛は怖いね」
「ごっちんの愛は可愛いけどね」
暗に三日月と小狐丸の愛は可愛くないと主は言っていた。
愛の戦士に釘を刺す
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